研究概要 |
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の長期作動安定性にとって重要課題である、空気極(カソード)のクロム被毒問題の解決を目指している。申請者らは、既存材料(LSM)を用いた過去の研究において、世界で初めてクロム被毒・劣化現象の概要を明らかにした。本研究は、これを発展させ、耐クロム被毒カソード材料を創製するため、電極材料種による被毒・劣化挙動を解明することにより、異なる電極材料であっても、クロム被毒・劣化過程と支配因子を予測できる系統的な理論を構築することを目的とする。 当該年度(2年目)の当初計画は、(1)カソード過電圧、電流密度等の作動条件が、クロム被毒によるクロム析出分布に及ぼす影響を、異なるカソード材料であるLSM,LSCF,LNFについて比較し、共通的メカニズムや材料による違いを明確化すること、(2)カソード材料に混合する酸化物材料や、微量添加元素の影響を明確化することであった。(1)については、数多くのセル試験、電子顕微鏡観察によって再現性を確認しながら、カソード過電圧と電解質近傍におけるクロム析出量との相関を注意深く測定した。その結果、「クロム析出は、電流密度とは無関係で、電極反応場における酸素活量低下(=カソード過電圧)に影響され、LSM,LSCF,LNFの間ではカソード材料による差がない」ことを明らかにした。共通的メカニズムを理解するための貴重なデータが得られたと言える。(2)については、(1)の実験においてLSMカソードにはScSZが混合されていること、LSCFカソードには電解質との間にGDC中間層が形成されているなど別の材料が加わっているにも関わらず、差が見られなかったことを考慮して、現状では大きな効果が期待できないと考えられる。 当該研究は、今後さらにLa系以外の材料系で同様の検討、高分解能電子顕微鏡を活用した詳細メカニズムの解明等が必要であるが、材料系が異なる場合においてもクロム被毒現象を共通的に説明するメカニズムの解明に一歩近づけることに貢献した。
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