平成23年度は、プレア・ヴィヒア寺院の踏査を行った。安全上の問題から、トータルステーションやレーザー測距等の機材を使用した実測が不可能であったため、手作業での簡易な測量と、建築装飾に関するインベントリー、並びに、既往研究によって指摘されていた改造の痕跡について目視観察による調査を実施した。なお、この作業にあたっては、早稲田大学大学院生2名の協力を得た。同寺院は2008年のユネスコ世界遺産登録にあたり、様々な分野の専門家による調査がなされているが、実測図面としては1939年に出版されたH.Parmentierによるものが最新であり、再測量と実測図面作成、既往研究の詳細な検討が大きな課題となっている。本研究により実施した改造痕跡調査の概要については、次回日本建築学会大会学術講演会において報告する予定である。 踏査困難な場所に位置する遺跡の情報集積にあたっては、リモートセンシングとGISの活用が有効である。本研究では、対象地域の地形データ(DEM)をsrtm及びASTERから入手し、GPS測位によって取得した遺跡の位置情報を、これに重ねて格納した。現在の地形及び水系が寺院造営時のそれと大きく変わらないものと考えるならば、遺跡の分布状況、立地環境をDEMの中で俯瞰的に捉えることができる。プレア・ヴィヒア寺院を中心とする山岳寺院の分布状況、立地環境の解明には、さらなる調査研究が要されるが、リモートセンシングとGISを用いた古代クメール遺跡の情報整理と都市発展史の再考察は、本年度より科学研究費補助金・若手(B)「GISを用いた古代クメール都市発展史の復原的研究」(研究課題番号:24760529)にて継続予定である。
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