溶接部には熱履歴に起因した残留応力が発生し、構造物の破壊や変形に対して重要な要因となる。従来の残留応力特性に関する研究は、溶接後の試験片を用いて行なわれているため、溶融・凝固過程と発生する残留応力との関係は未だ明らかにされていないが、より高精度に残留応力を評価・制御するには、溶接現象と関連付けた評価が必要となる。特に溶融池内の対流は、溶融池形状や溶け込み深さに大きな影響を与えることから、残留応力との関係も無視できない。本研究では、溶融池内対流現象を、より定量的に把握するため、従来のX線源と比較し高輝度、高指向性を有する放射光高輝度単色X線を利用し、溶接中の材料内部の可視化を試みた。 溶融池観察は、大型放射光施設(SPring-8)のビームラインBL19B2及びBL22XUを使用して行なった。X線のエネルギーは30keV及び70.3keVである。試験片はアルミニウム合金、ステンレス鋼及び炭素鋼である。試験片上部よりファイバーレーザーを集光照射し、トレーサー粒子の過渡挙動を吸収コントラスト法により計測した。検出器にはCCDカメラを使用し、シンチレータを透過したX線を約0.015秒の時間分解能で観察した。 平成23年度は、CCDカメラの時間分解能が一桁あがったことにより、溶融池内のトレーサー粒子の挙動と固液界面の時間変化を、より詳細に捉える事が出来た。例えば、アルミニウム合金に熱源固定でレーザー照射を行なった場合には、トレーサー粒子はレーザー照射部から溶融池内に入り込み、固液界面に沿って底に移動した後、レーザー照射部に向けて上昇しており、レーザー照射部を中心とした渦構造が鮮明に観察された。
|