我が国の医療においては高齢化がますます進むにつれ、社会的入院の増加や医療費の高騰など様々な問題が深刻化している。国はこうした現状の解決に向けて医療福祉施設の機能分化を進めており、急性期病院では、平均在院日数の短縮、患者の重度化、ケアの集中といった変化が起きている。このような状況において、療養環境への意識の向上もあり、新築病院の個室率は増加傾向にある。しかしながら病棟個室化の利点や不安に対するエビデンス研究は、国内ではほとんど行われていない。本研究は病棟の個室化が運営や環境へ与える諸々の影響を検証することを目的とする。 平成23年7月に多床室主体病棟から全個室病棟へと移転新築する栃木県の病院を対象事例とし、移転前後において、病床運営および療養環境の2つの観点から(1)患者の転床記録(2)家族の見舞い時間(3)環境意識アンケート調査を行う。平成22年度の研究実績としては、移転前の多床室主体病棟で調査が終了している。 特に患者の転床記録調査については、平成23年3月28日から4月28目(震災のため平成22年度から繰越)の計32日間に亘って、内科と外科の各1病棟で患者のベッドを動かす都度、看護師にその配置と根拠を記録してもらった。調査期間中の各転床回数は、外科で入院71回/退院85回/棟内転床112回、内科で入院51回/退院63回/棟内転床28回であり、外科の棟内転床は内科の4倍もある。棟内転床の実態を見ると、外科病棟は手術患者が多いため、治療上の理由により患者をステーションの近くに配置していた。いっぽう内科病棟は病床の回転が遅く、終末期や、患者の希望による転床が多く挙げられていた。 また他の患者のベッド調整を理由に転床する例が、外科で13回、内科で6回発生している点も無視できない。少なくとも多床室病棟では、本来移動不要な患者が玉突きで病床を移動している事例が比較的高い割合で存在することが確認できた。
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