本研究は、前近代から近代期におけるグジャラート商人の交易ネットワークに着目し、インド西部沿岸、南アラビア・東アフリカ沿岸の各港市を対象に、インド洋西海域沿岸の歴史的港市におけるインド人商人の街区空間および居住空間の移動とその定着過程を明らかにすることを目的とする。本年度調査の概要と主要な点は以下が挙げられる。 (1)東アフリカ沿岸へ移動した町家型住居の成立と基本的空間構成 2月のインド調査では、ラム、ザンジバルに現存するインド系の住宅形式の出自を明らかにするために、前年度のキャンベイでの住宅調査を踏まえ、インド北西岸各地にあるボホラ商人の居住区に着目し、シッダプール、カッパドワンジ、ダホル、スーラト、ランデールにて町家型住居の現存状況に関する調査を行った。比較的多くの町家型住宅が現存しているランデール、スーラトでは、市街地全域を網羅する都市詳細測量地図(縮尺1/400)を入手し、典型的と考えられる住居数棟の実測調査を行った。 (2)19世紀後半から20世紀前半におけるザンジバルの都市形成プロセス 文献・古地図収集により、20世紀前半のザンジバルでは、宗教・出自・職能に基づくカーストの住み分けによって市街地形成が行われていたことが明らかとなった。市内に現存するカッチ商人の住宅については、現在でもインド人が居住する事例も見られ、出自となるカッチ地方の諸都市と共通する居住空間の住みこなしが行われていることが分かった。
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