除草剤の普及に伴い、除草剤抵抗性雑草の発生が多数報告されるようになった。なかでも世界中の農耕地で問題雑草となっているライグラス(Lolium spp.)は、除草剤抵抗性の発生報告数が多く、最も深刻な除草剤抵抗性雑草の1つとされている。国内においても穀物輸入港近傍において除草剤抵抗性ライグラスの生育が確認されている。ライグラスは牧草や緑化植物として広く利用されている他、日本各地で雑草化している。これらは風媒の他殖性であり、近縁種間でも容易に交雑が起こる。従ってライグラスに出現した抵抗性遺伝子は環境中へ拡散しやすいと考えられる。そこで本研究では、抵抗性遺伝子およびマイクロサテライト領域をマーカーとして、種子・花粉散布などのプロセスを通じた時間的・空間的な遺伝子の動きを明らかにし、除草剤抵抗性個体の存続性および除草剤抵抗性遺伝子の拡散可能性を評価することを試みた。 抵抗性個体の生育が確認されている港湾近傍の集団を対象に、生育個体とそれらの生産種子の除草剤抵抗性個体の割合を調べたところ、親集団、生産種子ともほぼ1-2割であった。また、周辺集団の空間的遺伝構造を解析したところ、道路の形状を反映した局所的な遺伝構造が検出された。 次に遺伝子型頻度に基づくクラスタリングを行ったところ、抵抗性が見つかった集団と3キロ以内にある集団は同じクラスターに、3キロ以上離れた集団は別クラスターに振り分けられた。 以上の結果より、抵抗性遺伝子は自然条件下における交雑により同一集団内で維持されているが、周辺集団との遺伝子流動は限られ、局所的な遺伝構造が形成されていることが示唆された。
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