研究課題
後生動物の発生様式の網羅的解析を行う中で、当初から着目する予定であった珍渦虫と平板動物の研究で本年度は特に成果が得られた。珍渦虫についてはその系統学的位置が長く不明であり、新口動物の一員であるという「新口動物説」と、左右相称動物の中で最初に分岐した無腸類と近縁であるという「無腸類説」の2つの説のうちどちらが正しいのか、結論が出ていなかった。私は共同研究者とともに無腸類と珍渦虫から分子的なデータを集積し改めて分子系統解析を行った。その結果、珍渦虫と無腸類は新口動物の中で互いに近縁なグループを形成し、そのグループは水腔動物(棘皮動物と半索動物)と姉妹群を形成することを発見した。珍渦虫が新口動物の一員であることがより明確になったことで、今後は珍渦虫の発生や進化の研究を行うことで、我々人間を含む新口動物の進化過程に関する新たな知見が得られることが期待される。また、珍渦虫の成熟精子の電子顕微鏡による微細構造の観察も行った。その精子は環形動物や棘皮動物など動物界に広く見られる後生動物にとって祖先的と思われる形態をしており、この精子形態から珍渦虫は体外受精を行うことが推測された。平板動物においてはこれまで筑波大学下田臨海実験センターでは採集例がなかったものの、本年度はセンター内複数ヶ所、及びセンター近くの海域からの採集に成功し、その個体数には季節的変動があることを発見した。採集した個体は研究室内で3ヶ月以上飼育しており、飼育下での補食、分裂の観察にも成功している。今後はこれらの飼育下、及び採集した平板動物を用いて形態学的、生殖学的、発生学的研究を行う予定である。
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Nature
巻: 470 ページ: 255-258
Acta Zoologica
巻: 92 ページ: 109-115
http://www.tsukuba.ac.jp/public/press/110214.pdf