多細胞生物の発達は、個体を構成する細胞が分化し、様々な形態と機能を獲得することによって成し遂げられます。植物細胞の分化に重要な細胞壁は、細胞膜にアンカーされている表層微小管の配向に依存して構築されますが、細胞膜近傍で表層微小管の配向を制御する分子実体は明らかにされていません。私はこれまでに木部細胞の分化誘導系を独自に開発し、細胞膜に局在する新規微小管結合タンパク質MIDD1を発見しました。MIDD1は細胞膜ドメインにアンカーされて局所的に微小管の脱重合を促進し、その結果として木部細胞特有の細胞壁構造が作り出されることを突き止めました。本年度は、細胞膜上に局在する植物特有のsmall GTPaseであるROPに着目して、解析を進めました。その結果、シロイヌナズナのゲノムがコードする11種のRoPのうちの一つが、顕著にMIDD1と共局在することを見出しました。BiFC法を用いてこのROPとMIDD1との相互作用を検証した結果、細胞膜ドメインにおいて相互作用していることが判明しました。恒常的活性変異をもたせたROPを発現させると、細胞膜全体でROPとMIDD1が相互作用したことから、細胞膜ドメインでROPが局所的に活性化していることが示唆されました。次に、このROPとMIDD1とを過剰に発現させたところ、表層微小管が顕著に減少しました。以上の結果から、局所的に活性化したROPがMIDD1をアンカーし、表層微小管の脱重合を促進することによって、木部細胞の表層微小管の配向が制御されることが明らかとなりました。
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