異常mRNAにより生じた異常タンパク質は、正常なタンパク質の発現量や活性の低下を介して、様々な悪影響を細胞にもたらす可能性がある。そのため、細胞は遺伝子発現の正確性を保証する品質管理機構を保持している。これまで我々は、終止コドンを欠失した異常mRNA分解経路の解析を通じて、連続した塩基性アミノ酸配列の合成が翻訳伸長の一時停止(翻訳アレスト)を誘起し、それに伴ってmRNAと合成途上の異常タンパク質が迅速に分解されることを明らかにした。本研究は、翻訳アレストとそれに共役したmRNA分解の詳細な分子機構を明らかにすることを目的として解析を行った。 我々は、翻訳アレストに関与する新規の因子としてRACK1を同定すると共に、1)RACK1の40Sリボソームに対する結合活性が翻訳アレストの誘起に重要であること、2)連続した塩基性アミノ酸配列による翻訳アレストがmRNA分子内切断を引き起こし、RACK1がこの反応を促進することを明らかにした(EMBO Rep.2010)。また、新たに翻訳アレストに欠損を持つ変異体(5株)を取得することに成功し、今後さらなる研究の進展が期待される。 さらに、翻訳の停滞に伴うmRNA切断(NGD)の必須因子であるDom34/Hbs1合体の、高熱性古細菌を用いた結晶構造解析と、出芽酵母を用いた生化学的解析により、Dom34/Hbs1複合体が停滞したリボソームの空のA部位を認識し、終止コドン非依存的な翻訳終結反応に関与する可能性を示した(Proc.Natl.Acad.Sci.USA。2010)。
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