第一の目的は下顎体高の集団差に歯牙がどの程度関与しているのか調査することであった。そこで、成長過程を通した下顎骨標本のCTデータから、下顎骨内の下顎管の高さ、歯胚の配置パターン、そして歯根の長さを計測し、それらと下顎体高の成長パターンとの関係性を調べた。結果として、切歯は現代日本人の方が、逆に大臼歯は縄文人の方が下顎体内の高い位置で形成されることが示された。歯根長に関しても小臼歯より前方の歯では現代日本人の方が長く、M3では縄文人の方が長いという結果を得た。これらの結果は、春期以降の現代日本入に特徴的にみられる前方で高い下顎体プロポーションには歯牙形成の影響が含まれことを示唆するものであった。 続いて、歯牙サイズの性的二型と下顎骨形態との関連性を調べるため、犬歯サイズの性差が真猿類でも大きいマントヒヒの雌雄間比較を行った。まず、成体の下顎骨形状を比較した結果、オスではメスよりも前方部の下顎体高が相対的に高いという特徴が観察された。さらに成長過程を通して比較した結果、この性差は歯牙年齢3-4歳までは見られず、それ以後の成長過程において出現することが示された。またオスの犬歯の歯胚はメスよりも長期間下顎骨内で拡大し続けることも示され、このことが相対的に前方の下顎体が高くなることに関与している可能性が示唆された。また、下顎骨正中部の断面形状塙さと幅の比、主軸の傾き等)は成長を通してほとんど雌雄差は見られなかった。
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