研究概要 |
本年度は,NOESYスペクトルのみを用いた新規構造決定手法であるNOESY-FLYA法の成果に関して科学雑誌上で発表した(J. Biomol. NMR. 50, 137-146 (2011)).本手法は,NOESY以外の他のどのスペクトルも用いずに,化学シフト帰属と,構造決定に必要な拘束情報を収得可能な点が際立った特徴である.モデル試料としてユビキチン(76 a.a.:SAIL標識)、及びTTHA1718(66 a.a.:二重標識)蛋白質の完全自動構造解析を行った. 信号処理法の改良では,これまでin-cellデータの信号解析に用いてきた最大エントロピー法(MaxEnt)に加え,共同研究先であるケンブリッジ大学のグループによって開発されたQuantitative MaxEnt (QME)法を基に,新たにin-cellデータに最適化させた.細胞内GB1蛋白質の立体構造解析にNOESY-FLYA法とQMEの両方を適用させたところ,従来法と比較して,新たに185個のNOEシグナル検出と88個の化学シフト帰属に成功し,主鎖RMSDで0.2A程度収束した立体構造を決定できた. 構造計算手法の開発では,CYANAの2面角系分子動力学計算にデカルト座標系の分子力場の導入に成功し,構造の最適化計算をCYANAの自動NOE解析とを組み合わせて再帰的に計算可能なアルゴリズムを開発した.従来のCYANAは,計算の高速化のために極端に単純化した目的関数で立体構造を評価していたが,本法を利用することにより,これまで以上に高精度の立体構造計算と自動NOE解析が可能になると期待できる.現在,複数の具体的なNMRデータに適用させ,構造の精度と計算速度の両面での実証実験を進めている.
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