本申請研究は、光開裂・解離性分子をβバレル膜蛋白質OmpAに修飾することで蛋白質構造に大きな摂動を加え、それによって引き起こされた変性状態からのフォールディングを生理的条件に近い温度・pH・塩濃度環境下において追跡することを目的とした。そこで、まずOmpAのβバレル構造ドメインの遺伝子配列をpETベクターに組み込んだプラスミドを作成し、そのプラスミドを形質転換した大腸菌を用いることによって発現を試みた。OmpAのβバレルドメインの発現をSDS-PAGEによって確認した。さらに簡便な精製を目的としてHisタグをC末端側に導入したプラスミドを作成すると同時に、システイン残基を導入した変異体の作製も行った。今後、光解離性分子によるOmpAの修飾を行い、構造を詳細に検討する予定である。一方、フォールディング反応に伴う膜蛋白質の構造変化に関する詳細な情報を得るためには、時間分解赤外差スペクトル分光測定を駆使する予定である。さらには、フォールディングキネティクスの解析には、得られた一連の赤外差スペクトルに対してSVD解析とグローバルフィッティング法を用いて、中間体の構造も含めて検討する必要がある。そこで、αヘリックスから構成される膜蛋白質pHRに関して、その光反応サイクルを実時間観察し、詳細な解析を行うことによって、膜蛋白質構造において起こる変化を追跡することを試みた。その結果、溶媒から隔離されたヘリックスの構造変化が光反応サイクルの後期に起こることがわかった。この予備実験により、よりドラスティックな構造変化であるフォールディング反応を時間分解赤外差スペクトル分光測定によってとらえることができると期待される。
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