研究概要 |
マメ科植物と根粒菌は植物由来の根粒と呼ばれる器官を介して共生している。根粒菌の感染後、宿主植物の根において様々な遺伝的プログラムが連続的に起こることにより、根粒が発生することが知られている。根粒菌の感染により、植物の分化した組織であった皮層のある細胞が脱分化し、そこから新たな器官である根粒がde novoに形成されるという根粒の特徴的な発生過程を考慮すると、根粒形成は植物の形態形成を研究する上でも興味深い対象となり得る。しかし、これまでの植物・微生物の共生研究では、根粒の発生、特に根粒原基が形成される過程に注目した研究はほとんど行われていない。 本研究はマメ科のモデル植物であるミヤコグサを用いて、根粒形成過程における皮層細胞の脱分化、細胞分裂および根粒原基形成を制御する分子メカニズムを解明するための研究を進める。H22年度は、この発生過程に関与する(1)変異体の単離と(2)発現変動する遺伝子(群)の同定、さらに、(3)発生過程のイメージングの3つのアプローチにより研究を進めた。(1)に関しては、化学変異源であるエチルメタンスルホン酸(EMS)で処理したM1植物を大規模に展開し、約3,100のM1個体由来の約57,000のM2個体を用いて、着目する表現型をもつ変異体が効率的に得られるようなスクリーニングを行った結果、新奇である可能性が高い変異体をいくつか単離した。今後はそれらの責任遺伝子を単離し、その機能を明らかにするための研究を進める。(2)、(3)に関しては、研究の目的を達成するために必要となる種々のコンストラクトを導入した形質転換体を作出し、次年度に行う解析の研究材料を揃えることができた。 本研究の進展により得られる成果は、共生研究の進展に大きく貢献できるだけでなく、植物に特徴的な現象である細胞の脱分化から器官形成が起こる仕組みを理解する上でも重要な知見となることが期待される。
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