グルコース1分子とセラミドから構成されるグルコシルセラミド(GlcCer)は糖脂質の基本骨格である。GlcCer合成量の制御は細胞内糖脂質量を規定する上で重要なステップであるが、その制御機構は不明である。糖脂質は生体膜の構成分子であり、複雑精緻な生命活動を適切に運営する場を提供する。従って、細胞内における糖脂質の量や局在を制御する仕組みの解明は、生命および各種病態を理解する上で重要な研究課題と言える。当初はカベオリンがGlcCer合成量を調節しうる因子であるという仮説を軸に研究を進めたが、より生理条件に近いGlcCer合成酵素アッセイを開発し、この仮説を検証した結果、支持するようなデータは得られなかった。しかしながら、この新しいアッセイによって、AMP-activated protein kinase (AMPK)のアゴニストであるAICARによりGlcCer合成が抑制されることを見出した。AMPKは細胞内のエネルギーセンサーとして働くセリン/スレオニンキナーゼであり、AMP/ATP比が高い、即ちエネルギー不足時に活性化され、ATPの消費を抑制し、ATP合成を促進する。AMPKを活性化するグルコース枯渇時、および2-deoxyglucose添加時にもAICAR処理時と同様に、細胞内GlcCer合成能の低下が観察され、またAMPKのアンタゴニストであるCompound CによりGlcCer合成能低下が抑制された。これらの結果は、AMPKはGlcCer合成を負に制御する因子であるという可能性を示唆している。今後は、エネルギーセンサーAMPKとGlcCer代謝との関係性を立証するデータを収集し、詳細なメカニズムの解明を目指すつもりである。
|