本研究の目的達成には、真核生物クロマチン繊維を、超分解能蛍光顕微鏡手法の3DSIMを用いて、可能な限り生体内に近い条件で観察する必要があった。本年度は、3DSIMによる生細胞観察手法を実現した。生細胞を観察するためには、細胞周辺の屈折率の違いが大きな問題となるが、光学的調整によりこの問題を解消し、生きた分裂酵母のクロマチンを直接観察した。生きた分裂酵母の間期クロマチンは、120nm以下の径を持つ比較的大きな繊維状の高次構造を形成していた。生きた細胞でDNA繊維が観察されたのはこれが初めてである。 この繊維構造をより詳細に解析するため、固定細胞を用いて実験を行った。これに先立ち、生きた細胞におけるクロマチン構造と同様の構造を保持する化学固定条件を検討した。ほとんどの化学固定液では、クロマチン繊維の径が膨張する傾向が見られたが、DNA消化酵素を阻害した上、高速に固定が進行する固定液を用いることにより、生細胞とほぼ等しい繊維構造を保持できるようになった。このように作成した標本を用いて、分解能が約30nmのSTORMによりDNAを観察したところ、約100nmの数珠状の繊維構造が観察された。このような数珠状構造は、近年の生化学的な研究報告で予想された構造であるが、顕微鏡で観察されたのはこれが初めてである。さらに、多色画像を正確に位置合わせするプログラムを作成した。これを用いて、ヒストン修飾の抗体染色を行い、ヒストン修飾とDNA繊維を多色3DSIM観察し、重なりを定量化したところ、ヘテロクロマチンとユークロマチンはほとんどの領域で同様に凝縮していることが明らかになった。また、転写部位は脱凝縮して繊維から突出していることを見出した。これまで、ユークロマチンに関して明確な凝縮率が報告されていなかったが、この結果は転写不活性なユークロマチンが高い凝縮率を持つことを明快に示している。
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