本研究の目的は、ヘム含有PASドメインをセンサーとする新規なシグナル伝達タンパク質が『どのようにして特定のエフェクター分子を選択的に認識し、その後、どのようにして機能を制御するのか?』を構造生物学的な手法を駆使して明らかにすることである。 本年度は、ヘムタンパク質であると推定された走化性シグナル伝達タンパク質である緑膿菌由来Aer2を単離精製し、変異体解析ならびに電子吸収スペクトル測定や共鳴ラマンスペクトル測定を行った。その結果、Aer2は『PASドメイン中に含まれるヘムを酸素分子のセンサーとして用いる新規な酸素センサータンパク質である』ことを明らかにした。さらに、エフェクター分子の結合に伴ってタンパク質分子全体に誘起される構造変化を考察するために、Aer2のX線結晶構造解析も試みた。まず、Aer2を高純度に調製する精製方法を確立した。、その高純度の試料を用いて、酸素分子のアナログとしてシアニドイオンを結合させた状態での結晶化に成功した。そして、その結晶のX線回折データを収集し、ヘム鉄を用いた多波長異常分散法により位相を決定した。現在、構造精密化を進めるとともに、異なるヘムの酸化状態や他のリガンドを結合した状態のAer2に関しても結晶化を試みている。今後は、各状態における立体構造を明らかにし、それらの構造を比較することにより、リガンド結合解離に伴う構造変化やその後に誘起される分子内シグナル伝達機構の解明を目指す。
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