ヘム蛋白質が気体分子センサーとして機能するためには、生理的エフェクターとして機能する特定の気体分子が選択的にヘム鉄に結合し、それに伴う構造変化が蛋白質全体に伝わることにより、センサー蛋白質内での分子内シグナル伝達、およびセンサー蛋白質と各種シグナル伝達蛋白質間での分子間シグナル伝達が制御される必要があると考えられる。しかし、多くのヘム含有型センサー蛋白質では気体分子の識別感知や、それに続くシグナル伝達の分子機構について未解明である。本研究では、ヘム含有PASドメインをセンサーとして用いるシグナル伝達蛋白質が『どのようにして特定のエフェクター分子を選択的に認識し、その後、どのようにして機能を制御するか?』を解明することを目的とし、平成23年度は以下の研究を行った。 (1)ヘム近傍構造解析による酸素分子の識別感知機構の解明 Aer2の生理的エフェクター分子である酸素分子が分子中のヘム鉄に結合した酸素化型と、それ以外のリガンドが結合した状態のAer2について共鳴ラマン測定を行い、各状態でのヘム近傍構造を解析した。その結果、酸素分子が結合した時はその周辺のアミノ酸側鎖と水素結合を形成し、他の気体分子が結合すると水素結合が形成されないことを明らかにした。 (2)X線構造解析による構造機能相関の解明 Aer2のヘム含有PASドメインとその周辺領域のX線結晶構造解析を行い、PASドメインとその他のドメインが融合した蛋白質として世界初の立体構造を解明した。その構造から、ヘム鉄に結合した酸素分子は近傍に存在するトリプトファン側鎖と水素結合を形成することが明らかになった。また、このトリプトファンはPASドメインの末端に存在するため、それに続くHAMPドメインへのシグナル伝達におけるトリガーとして機能することが示唆された。
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