乳汁の生成機構を明らかにすることは、家畜の乳量や乳質の向上のために重要である。乳腺は、腺房と導管からなる外分泌腺の一つであり、乳脂肪、乳蛋白、乳糖のほか、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロライド(Cl)イオンなどの電解質を含む乳を分泌する。様々な動物の乳中のNa、Clイオン濃度は血漿中のそれらの濃度より低く、Kイオンは高い。よって、唾液腺や膵臓など他の外分泌腺で知られているように、乳腺においても腺房と導管における電解質の分泌と再吸収機構が存在し、乳の電解質濃度、浸透圧、pH、水分量などを調節していることが想像されるが、これら電解質輸送機構は不明である。そこで、乳腺腺房上皮細胞および導管上皮細胞の電解質透過性とそれに寄与するイオンチャネルなどの輸送体、さらにその発現、活性調節機構を明らかにすることを目的に研究を行った。まず、妊娠期乳腺から腺房上皮細胞を単離するための条件を決定した。次に、単離した新鮮な乳腺腺房上皮細胞を用いて電気生理学的解析を行い、特徴的な電解質透過性を検出した。また、その透過性を担っていると考えられるイオンチャネルファミリーの妊娠期乳腺組織におけるmRNA発現を解析した。平成23年度はこれまでに検出した電解質透過性の分子基盤の解明が課題であり、電解質透過性の各種性質(電位依存性や電解質選択性、薬剤感受性など)と、妊娠から泌乳にかけての候補分子の発現量変化や局在の解析から、乳汁生成に寄与すると考えられる分子を特定する。
|