植物の抵抗性(R)タンパク質が病原体由来の非病原性(Avr)タンパク質を認識することによって誘導される過敏感反応(HR)は病原菌感染に対して非常に強力な植物の防御応答であり、これまでも多くの研究が行われてきた。しかし、実際の感染植物葉でのAvr認識細胞から周辺細胞への細胞死や防御応答シグナルの実体やその伝搬様式の詳細は未だ明らかではない。そこで、植物の過敏感反応(HR)に伴う防御応答の細胞間伝搬様式を明らかにすることを目的として、本研究では、シロイヌナズナを用いて一細胞でAvrタンパク質を誘導発現させる実験的なモデル系を構築し、HRで誘導される細胞死や防御応答反応の周辺細胞への伝播様式を明らかにし、その過程に関わると想定されるサリチル酸や活性酸素種、細胞膜受容体等の役割を遺伝学的に検証する。同時に将来的なHR誘導細胞間シグナリング分子同定に向けた基盤整備を行う。平成22年度はその準備段階として、以下の形質転換体植物を作成した。1、Lox配列組換えによりAvrRpt2-sGFPもしくはsGFPを発現するシロイヌナズナCol-0植物(T_0種子回収中)、2、エストロゲン誘導型AvrRpt2-sGFPもしくはsGFPを発現するシロイヌナズナCol-0植物(T_1植物選抜済み。現在、それらの種子回収中)、3、PR1遺伝子プロモーター、もしくはSID2遺伝子プロモーターにより、核局在型YFPを発現するレポーターシロイヌナズナCol-0植物(T_1植物選抜済み。現在、それらの種子回収中)、4、PR1遺伝子プロモーター、もしくはSID2遺伝子プロモーターにより、GUSを発現するレポーターシロイヌナズナCol-0植物(T_0植物種子回収中)。その他の特筆すべき成果としては、3で選抜されたT_1植物にPseudomonas syringe (AvrRpt2)を接種したところ、接種後24時間で現れたHR病班周縁部において、PR1遺伝子プロモーターおよびSID2遺伝子プロモーターにより誘導された核局在型YFPシグナルが蛍光顕微鏡観察下で観察され、本形質転換体が本研究において有効なツールとなりうることが示唆された。
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