植物の抵抗性(R)タンパク質が病原体由来の非病原性(Avr)タンパク質を認識することによって誘導される過敏感反応(HR)は病原菌感染に対して非常に強力な植物の防御応答であり、これまでも多くの研究が行われてきた。しかし、実際の感染植物葉でのAvr認識細胞から周辺細胞への細胞死や防御応答シグナルの実体やその伝搬様式の詳細は未だ明らかではない。そこで、植物の過敏感反応(HR)に伴う防御応答の細胞間伝搬様式を明らかにすることを目的として、本研究では、シロイヌナズナを用いて一細胞でAvrタンパク質を誘導発現させる実験的なモデル系を構築し、HRで誘導される細胞死や防御応答反応の周辺細胞への伝播様式を明らかにし、その過程に関わると想定されるサリチル酸や活性酸素種、細胞膜受容体等の役割を遺伝学的に検証する。同時に将来的なHR誘導細胞間シグナリング分子同定に向けた基盤整備を行う。 本年度においては、(1)これまでに作成した各種防御応答マーカー発現形質転換体とCre-Lox誘導型AvrRpt2形質転換体を交配し、その後代において熱誘導によるAvrRpt2モザイク発現の条件検討を行い、モザイク発現実験系を構築し、(2)さらに同実験系を用いてAvrRpt2の細胞間移行の可能性の検証、一細胞でのAvrRpt2発現によるHR細胞死や下流防御応答遺伝子発現の伝搬様式の検証を行うことを目指したが、補助事業の停止により、上記(1)を行っている段階までで終了した。しかし、補助事業停止時までの進展度としては順調に進み、各種防御応答マーカー形質転換体が得られ、Cre-Lox誘導型AvrRpt2発現植物を作出、選抜中であり、これら研究成果は、本補助事業停止の理由となった研究代表者の新規採択科学研究費補助事業(若手B)でさらなる解析を行う。以上のように、本補助事業の成果は本研究のさらなる発展の礎となった。
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