本研究は、日本列島固有植物であるタケ亜科植物において、葉緑体遺伝子マーカーに加え、核遺伝子である花成遺伝子をターゲットとして雑種性の有無と両親種の推定を検討することを目的とする。今年度は以下の内容を実施した。 1.サンプリング:東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林の北海道演習林および秩父演習林においてササ類の分布を確認した。北海道演習林では、高標高域にチシマザサが、低標高域にクマイザサが分布しており、秩父演習林では、高標高域にミヤコザサが、低標高域にスズダケが分布する。両演習林において2種のササ類の分布域が重複する場所を調査地とし、種間雑種と考えられる個体群を探索した。推定雑種個体群を含む高標高から低標高域の範囲において一定間隔に約30個体を根際より採集した。採集場所の位置情報はGPSによって取得し、証拠標本は押し葉標本にして東京大学千葉演習林内で保管した。 2.DNA抽出:証拠標本の葉から1cm四方の断片を切り取り、破砕機により粉砕した。粉末をバッファーに懸濁後、FTA Plant Cardに滴下し、風乾させて葉に含まれる全DNAを抽出精製した。 3.PCR法:葉緑体ゲノムマーカーrbcLおよびmatKに加え、核遺伝子マーカーとして花成遺伝子PmFT遺伝子のプライマーを設計し、PCR増幅を行ない、プライマーの有効性を検討した。 来年度は証拠標本の詳細な同定を行なうとともに、候補遺伝子の塩基配列情報を獲得し、標本の同定結果と照らし合わせ、ターゲット領域の有効性を検討する。本研究により、推定雑種起原の限りない中間形や複合体によって同定が極めて困難なタケ亜科植物において、誰にでも同定可能な簡明な検索システムを構築することが可能となる。
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