日本列島準固有植物であるササ類は冷温帯林床優占種として森林施業においても重要な分類群であるが、浸透性交雑により生じた限りない中間形や複合体が存在し、外部形態による同定が非常に困難である。 本研究は、DNAバーコーディングの手法に基づき、推定雑種分類群を含むササ類において葉緑体および核遺伝子を解析し、雑種およびその両親種を検出可能なマーカーとしての有効性を検討することを目的とした。 東京大学秩父演習林において標高920m~1910mに分布するササ類37個体を、同北海道演習林において標高530m~1200mに分布するササ類16個体を採集した。外部形態による同定結果から、秩父演習林では高標高域にミヤコザサが、低標高域にスズダケが分布し、標高1800m付近にササ属とメダケ属の推定雑種ヒシュウザサが確認された。北海道演習林では1200m地点にチシマザサが、530m地点にクマイザサが確認された以外はチシマザサ-チマキサザ複合体のオクヤマザサであった。遺伝子解析の結果、rbcL配列ではスズダケ属に特異的な1塩基置換が検出された。花芽運命決定遺伝子LFY配列では変異は検出されなかった。花成促進遺伝子FT配列では複数の1塩基置換と3~36bpの挿入欠失が検出された。FTとrbcLの系統解析を比較した結果、FT配列は属間雑種の推定には利用できないが、浸透交雑した種間雑種の推定には有効な可能性が示された。 本研究により有用な核遺伝子マーカーが開発されれば、推定雑種起原のササ類において、誰にでも同定可能な簡明な検索システムを構築することが可能となり、生物多様性の保全のみならず林業などの産業分野においても応用可能な技術となると期待される。
|