本年度に得られた成果の概要は以下の通りである 1.警報フェロモン候補分子の絞り込み及び同定 これまでの研究により確立した方法を用いて警報フェロモンを多数匹のドナーラットから放出させ、それを吸着剤(Tenax)に捕捉し、含まれる成分を3つに分画したところ、そのうち1つの画分においてのみフェロモン活性を有することが明らかとなった。次にその画分に含まれるメジャーピーク物質を全て揃えることで合成ブレンドサンプルを作製し、そのフェロモン活性を生物検定法により判定したところ、フェロモン活性は認められなかったため、警報フェロモン分子はマイナーピーク物質であることが明らかとなった。そのため上記画分をさらに3つに分画したところ、そのうちの1つにのみフェロモン活性が認められることが明らかとなった。現在、この画分に含まれている物質を分析しているところである。 2.安寧フェロモン解析のための実験系の改良 前年度に確立した安寧フェロモン評価系を用いて、安寧フェロモンに対する理解を深める目的で実験を行った。主嗅覚系で受容された安寧フェロモン情報は前嗅核へと伝達されることが示唆されているが、その後フェロモン情報が扁桃体へと機能的に伝達されているかは不明であった。そのため、前嗅核と扁桃体を非対称的に破壊することでこの問題を検討したところ、安寧フェロモン情報は前嗅核から同側の扁桃体へと機能的に伝達されることが明らかとなった。またトレーサーを用いることで、前嗅核が主嗅球からフェロモン情報を受け取っていることを解剖学的にも確認した。現在は、パートナー由来の匂い物質のみを提示することでこれまでと同様の現象を引き起こすことが可能であるかを検討することで、安寧フェロモン同定の基礎となる実験系を整備しているところである。
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