ABCトランスポーターであるABCA1は細胞の過剰なコレステロールを血中のapolipoproteinA-1(apoA-I)に受け渡すことで、善玉コレステロールとして知られる高密度リポタンパク質(HDL)を形成する。本研究課題では、HDL形成の第一段階であるABCA1とapoA-Iの結合の機構を明らかにすることを目的としている。2010年度の研究により、ABCA1とapoA-Iの結合が細胞内ATP量に依存することを明らかにした。そこで、2011年度はABCA1の2つのヌクレオチド結合領域(NBD)において、どのようにATPを加水分解するのか、そしてATP加水分解のエネルギーをapoA-Iとの結合にどのように利用するのかを解析した。2つのNBDでのATP加水分解をそれぞれ解析するために、一つ目のNBDの直後にTEVプロテアーゼ認識配列を挿入し、2つのNBDを分離できる系を確立した。また、他のABCタンパク質においてATP加水分解に必須なWalker A配列のリシン残基をメチオニン残基に置換したKM変異体を作成した。[・32P]8N3-ATPを用いた光親和性標識実験から、(1)ABCA1の2つのNBDにATPが結合し、結合したATPが加水分解されること、(2)KM変異はATP結合には影響しないが、ATP加水分解を抑制することを明らかにした。ABCA1とapoA-1との結合は片方のNBDにKM変異を導入することで完全に観察されなくなった。また、ABCA1の細胞外領域の443番目の残基に挿入したHAタグ(YPYDVPDYA)の抗HA抗体による認識も、片方のNBDにKM変異を導入することで劇的に低下した。以上の結果より、2つのNBDでのATP加水分解により、ABCA1の細胞外領域の構造が変化し、apoA-Iとの結合部位が形成されることが明らかになった。
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