昆虫は微生物感染時において、グラム陰性細菌に対してはImd経路、グラム陽性細菌および真菌に対してはToll経路を用いて的確に異物を認識する。しかし、2010年2月に国際アブラムシゲノム解析コンソーシアムによってエンドウヒゲナガアブラムシ(Acyrthosiphon pisum)のゲノム情報が解読された結果、アブラムシでは他の生物種間で高度に保存されているImd経路関連遺伝子を大幅に失っていることが明らかとなった。このような背景を受け本研究では、微生物(特にグラム陰性細菌)感染に対するアブラムシの免疫機構の解析を行った。 二次共生細菌を保有していないエンドウヒゲナガアブラムシ二系統(AIST/AIST系統、および滋賀黒丸系統)に対して、グラム陽性細菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)またはグラム陰性細菌である大腸菌(Escherichia coli)を、マイクロインジェクションシステムを用いて様々な菌濃度(10^3~10^6 CFU/アブラムシ個体)で注射感染させることにより、種々の細菌感染に対する抵抗性(感受性)の解析を行った。その結果、AIST/AISTおよび滋賀黒丸両系統ともに、黄色ブドウ球菌感染に対しては明らかな抵抗性を示した(細菌10^6 CFU/アブラムシ個体感染において、感染72時間後生存率は75~85%)一方で、大腸菌感染に対しては高い致死率(細菌10^6 CFU/アブラムシ個体感染において、感染12時間後生存率は10~15%、感染72時間後生存率は0%)を示した。これらの結果から、エンドウヒゲナガアブラムシはグラム陽性細菌に対しては有効な免疫機構を有している一方で、グラム陰性細菌に対しては免疫機構が脆弱である可能性が示唆された。このような免疫機構の脆弱性は、アブラムシゲノム解析の結果と一致すると同時に、農業害虫であるエンドウヒゲナガアブラムシ防除における新規標的になり得ると考えられる。
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