研究概要 |
昆虫は微生物感染時において、グラム陰性細菌に対してはImd経路、グラム陽性細菌および真菌に対してはToll経路と呼ばれる免疫経路を用いて的確に異物の侵入を認識する。しかし、2010年にエンドウヒゲナガアブラムシ(Acyrthosiphon pisum)のゲノム情報が解読された結果、アブラムシはImd経路関連遺伝子を大幅に失っていることが明らかとなった。このような背景のもと、本研究では、アブラムシの免疫機構のより詳細な解析を目的として研究を行った。 まず、グラム陽性細菌(黄色ブドウ球菌、枯草菌)ならびにグラム陰性細菌(大腸菌,緑膿菌)をエンドウヒゲナガアブラムシに感染(菌濃度:10^2CFU/アブラムシ個体)させたところ、グラム陽性細菌感染アブラムシ群は48時間後においても80%の生存率を示したのに対して、グラム陰性細菌感染アブラムシ群は48時間後において全個体が死亡した。この結果は、エンドウヒゲナガアブラムシの免疫機構はグラム陰性細菌に対して極めて脆弱であることを示しており、ゲノム解析の結果と一致した。 次に、アブラムシに唯一残された免疫経路であるToll経路のシグナル伝達機構の解析を行った。昆虫においてToll経路を活性化するタンパク質「Spaeztle」に着目し、エンドウヒゲナガアブラムシのゲノム中に同様の遺伝子の存在を調べたところ、アブラムシには9個のSpaeztle様遺伝子が存在することが明らかとなった。そこで、グラム陽性細菌感染により免疫系を刺激したアブラムシからcDNAを調製し、9個のSpaeztle様遺伝子の発現を解析したところ、Spaeztle1-3、1-4、1-5の3種のSpaeztle様遺伝子の発現が有意に上昇していることが明らかとなった。 今後は、Spaeztle1-3、1-4、1-5遺伝子の発現を、RNA干渉法を用いて抑制した際に、Toll経路の活性化にどのような影響が出るのかを解析することで、エンドウヒゲナガアブラムシのToll経路を活性化するSpaeztleを同定する予定である。また、このようなSpaeztleを阻害標的とした新たな害虫防除法の開発に取り組む予定である。
|