温帯地域に生息する生物は光周性を備えており、季節に応じてストレス、情動、代謝などを変化させる。ヒトでは冬にうつ症状が発症する冬季うつ痛が知られている。 我々は昨年度、短日条件で飼育したFischer 344ラットでは副腎における感受性が亢進し、コルチコステロンの日内リズムが増幅することを示した。今年度には、日長伝達ホルモンと知られるメラトニンの影響を腹腔内投与実験により解析したが、コルチコステロンの日内リズムに影響は見られなかった。さらに、正常なメラトニン合成酵素を持たないC57BL/6Jマウスにおいても短日条件でコルチコステロンのリズム増幅が見られ、副腎における時計遺伝子やステロイド合成酵素の発現リズムが大きく変動していた。以上の結果から、ストレス関連の光周性反応にメラトニンは必須ではなく、交感神経等が重要であることが示唆された。 上記の解析により、従来光周性の動物モデルに不適切と考えられてきた実験用マウスが、ストレス関連の光周性に利用できる可能性が見出された。そこで、各種マウス系統を用いて、不安様行動(高架式十字路試験)やうつ様行動(強制水泳試験)の光周性反応を解析したところ、短日条件でこれらの行動が増加する系統が見出された。さらに、冬季うつ病と関連が深い脳内セロトニンやL-トリプトファン含量が短日条件で減少しており、本マウスが冬季うつ病のモデル動物として利用可能である可能性が示唆された。 情動と代謝は連動しており、冬季うつ病患者は過食や炭水化物飢餓を示す。本研究ではストレスや情動の解析に加えて、Fischer 344ラットで高脂肪食と低脂肪食の選択実験を行ない、長日条件で低脂肪食に対する選択性が増加することを見出した。また日長と飼料中の脂肪含量が増体量に及ぼす相互作用を明らかにした。以上の結果から、冬季うつ病治療や効率的な畜産に貢献できる季節栄養学的な基盤が形成された。
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