ヘテロ環を有する多環芳香族化合物分解能力を持つ鉄還元細菌を取得するため、カルバゾール(CAR)、ジベンゾフラン(DF)、ジベンゾチオフェン(DT)のいづれかが唯一のエネルギー源・電子供与体、不溶性の酸化鉄(III)が唯一の電子受容体となるよう調製した培地に自然界から採取した土壌、河川やダムの底泥、下水などを植種源として添加し、嫌気条件下で集積培養を行った。不溶性の酸化鉄の還元が確認されたサンプルを新しい培地へ4回以上植え継いで集積培養を行った後でも十分な鉄還元が確認されたサンプルは、CAR、DF、DTそれぞれ22、3、2サンプルであった。これらのサンプルについて、寒天プレート(市販の栄養培地や酢酸を電子供与体とする培地など)に播種し、そこに形成されたコロニーから、鉄還元性の基質分解菌の単離作業を行った。ここでは、CAR、DF、DTにおいて、それぞれ19、1、2サンプルにおいて、寒天プレートを用いてコロニーを形成させることに成功した。シングルコロニーを上記集積培養で用いた培地に接種し、酸化鉄の還元を観察することで、単離した株が基質分解能力と鉄還元能力を持つのかどうかを検証した結果、CAR、DF、DTそれぞれ10、1、1株で鉄の還元が観察された。CAR分解性鉄還元菌のうち旺盛に生育できる一株をMCO1株と命名し、その16S rRNA配列を決定したところ、Desulfovibiro属細菌と100%の同一性を示した。MCO1株はCARを含む寒天プレート(CARは水溶性が低いため白濁する)においてコロニーの周りにクリアゾーンを形成するため、CAR分解性を持つことが示された。 本研究では、嫌気的にCAR、DF、DTを電子供与体として利用する微生物を単離することに成功した。このような能力を持つ菌株の単離例はこれまでに報告されていないため、それらの株が新規代謝系及び新規遺伝子・酵素を持つ可能性が高い。
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