研究概要 |
ベトナム北部および西日本各地で水田カマバチとイネウンカ類の調査を行った.ベトナムではキアシカマバチのみ得られたが,日本ではトビイロカマバチとクロハラカマバチのみが得られた.他の提供を受けたものも加え,ベトナム北部,フィリピン,中国南部,台湾,日本で得られたサンプルに基づいて,トビイロカマバチとクロハラカマバチのミトコンドリアDNAのCOI領域約1100bpをそれぞれ比較した.その結果,前者ではハプロタイプの多型が地理的分布とまったく一致しなかったのに対して,後者では多型の地理的傾向が見出された.大きく分けて大陸型と日本型が認められ,中国と台湾からは大陸型のみ,関東からは日本型のみが見出された.九州では両者が混在していた.これらの結果を現在以下のように考察している.1)トビイロカマバチでは寄主であるセジロウンカと同様,幅広い地域で移動性がある可能性を示唆している.2)クロハラカマバチでは,大陸と九州の間で多少の移動が起きている可能性があるものの,東日本では大陸由来の個体の飛来が極めて限られる.キアシカマバチについては,サンプルの数と産地が少ないため継続して採集する必要がある.ベトナムと日本の個体それぞれ5個体程度を比較してみたが,ハプロタイプは一つしか検出されていない. また,台湾農業試験場(台中)所蔵のカマバチ類標本を調査し,水田カマバチ類の寄主記録や分布について調査した.トビイロカマバチはTarophagusに寄生するとされてきたが,その根拠となる標本はクロハラカマバチの誤同定であり,寄生記録が誤りであることが確かめられた.
|