研究課題
深海熱水噴出域や冷水湧出域では、多量の硫化水素が存在する。近年、このような環境に生息する生物の体内にチオタウリンが多く蓄積されていることが報告され、硫化水素の無毒化に関与していることが示唆されてきた。これまで、チオタウリンやタウリンなどを細胞膜上で輸送するタウリン輸送体が硫化水素の無毒化に関与している可能性を明らかにしてきたが、この機構が深海生物に特化したものなのか、浅海の生物も持つ既存の機構を応用しているのかは不明であった。本年度は、シンカイヒバリガイ類のタウリン輸送体が浅海の無脊椎動物と同様に、浸透圧調節に関与しているのか明らかにすることを目的とし、研究を遂行した。採集したシンカイヒバリガイ類を高浸透圧条件(天然海水に人工海水の素を溶解し、塩分39-40に調整したもの)、低浸透圧条件(天然海水を純水で希釈し、塩分34に調整したもの)で24時間までの飼育を行ない、8時間、24時間後に解剖を行なった。解剖では、鰐、足、外套膜を単離し、液体窒素による凍結保存を行なった。また、同じタイムコースで硫化物曝露に対する影響を調べるため、天然海水に硫化ナトリウム九水和物を溶解した溶液に生貝を曝露し、解剖した。これらのサンプルは、RNA抽出を行なった。現在、リアルタイムPCRによるタウリン輸送体mRNAおよび共生菌16SrDNAの定量を行なっている。また、硫化物濃度が異なる環境に生息するシンカイヒバリガイ類のタウリン輸送体mRNA量の比較を行なうため、複数地点のコロニーから採水し、シンカイヒバリガイ類の採集を行なった。しかしながら、どの地点でも硫化物がごく低濃度しか検出されなかったため、来年度の調査航海においても引き続き研究する予定である。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Cahiers de Biologie Marine
巻: 51 ページ: 429-433