水田は世界人口の半数の主食であるコメを生産する食料生産基地である一方、強力な温室効果ガスであるメタンの放出源でもある。水田から放出されるメタンの基質の多くは、生育中のイネから根圏に分泌・供給される有機物に由来する。今後の世界人口の増加を考えると、コメ生産を増加させながらメタン放出量を削減する二兎を追う技術の確立が求められている。 増加し続けている大気中CO2濃度はコメの増収をもたらす反面、水田からのメタン放出をさらに助長することが分かってきた。これは高CO2がイネの光合成活性を高める一方、光合成産物の貯留先である子実(コメ、主要な炭素のシンク)の容量に限界があり、余剰の光合成産物が根圏へ転流されるためと想定される。したがって、逆に高CO2環境に見合ったシンクを確保することにより、光合成産物の転流先を子実により集中させ、根圏への炭素フローとそれに起因するメタン発生を低減させることができる、という仮説を想定して研究を展開した。 平成22年度は、茨城県つくばみらい市の農家圃場に設置した開放系大気CO_2濃度増加実験を利用し、シンク容量の異なる複数の品種・染色体断片置換系統からのメタン発生量を測定した。供試した品種・系統は日本の主力品種である「コシヒカリ」をコントロール品種、大粒系でシンク容量が大きい「秋田63号」および一穂粒数が多いコシヒカリの染色体断片置換系統(CSSL)(「SLgn1」と「SLgn8」)をシンクの大きい品種・系統とした。実験の結果、シンク容量の大きいSLgn1、SLgn8、および秋田63号はコシヒカリよりもメタン発生量が少ない傾向にあり、単位収量あたりのメタン放出量ではその傾向がより顕著となった。これらの結果は仮説を支持しており今後は年次を越えて同様の結果が得られるかを検証する予定である。
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