研究課題
水田は世界人口の半数の主食であるコメを生産する食料生産基地である一方、強力な温室効果ガスであるメタンの放出源でもある。水田から放出されるメタンの基質の多くは、生育中のイネから根圏に分泌・供給される有機物に由来する。増加し続けている大気中CO_2濃度はコメの増収をもたらす反面、水田からのメタン放出をさらに助長することが分かってきた。これは高CO_2がイネの光合成活性を高める一方、光合成産物の貯留先である子実(コメ、主要な炭素のシンク)の容量に限界があり、余剰の光合成産物が根圏へ転流されるためと想定される。したがって、逆に高CO_2環境に見合ったシンクを確保することにより、光合成産物の転流先を子実により集中させ、根圏への炭素フローとそれに起因するメタン発生を低減させることができる、という仮説を想定して研究を展開した。平成22年度に引き続き23年度も茨城県つくばみらい市の農家圃場に設置した開放系大気CO_2濃度増加実験施設を利用して、シンク容量の異なる複数の品種・染色体断片置換系統からのメタン発生量を測定した。その結果、二カ年を通して大粒系品種はコシヒカリと比べてメタン発生量が少ない傾向にあった。特に、穂重あたりのメタン発生量がCO_2濃度にかかわらずコシヒカリより25-28%少なかったことから、大粒系品種はメタン発生量の低減と収量増加を両立させる上で有用な形質を持っていることが示唆された。一方、高CO_2がメタン発生量に与える影響は生育初期に+30%程度と大きく、その後は生育に伴って低下することが観測された。本研究のソース・シンクバランス仮説は主に出穂期以降の高CO_2影響に着目したものであったが、今後は、より早い生育ステージにおける高CO_2影響にも注意を払う必要があることがわかった。
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Global Change Biology
巻: 17 ページ: 3327-3337
DOI:10.1111/j.1365-2486.2011.02475.x.