研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の大部分を占める孤発性AD(SAD)の発症機構には未解明な点が多く残されている。家族性AD(FAD)の発症には、原因遺伝子の変異によるAβ42の産生量・量比の増加が関与していると考えられるが、Aβ42は凝集性が高く、Aβの生体内における正味の質的・量的変化を捉えるのは難しいという問題点がある。私はSAD患者にもおいてもγセクレターゼ切断変化が起こっているのではないかと考え、これを検証するためにAPP以外のγセクレターゼ基質であるAlcadein(Alc)の切断産物を解析した。 Alcは、X11Lを介してAPPと複合体を形成するI型膜タンパク質である。X11Lの解離により、APPからはAβが、Alcからはαセクレターゼとγセクレターゼの切断により「p3-Alc」が分泌される。私はまずAPPのγ切断変化を引き起こすPS1変異体を用いたin vitro解析より、Alcのγセクレターゼ切断はAPPと協調的に変化することを明らかにした(J Biol Chem, 2009)。p3-AlcはAβとは異なり凝集性が低く、生体内においてもγセクレターゼ機能変化を捉えられるペプチドであることがわかったので、本年度は孤発性AD患者サンプルの解析を行った。その結果、SAD患者の脳脊髄液(CSF)では疾患特異的にAlcのγ切断変化が起こっていることが明らかとなった(Ann Neuro1, 2011)。さらに、血液中においてもSAD患者でp3-Alcの量的変化が起こっていることを明らかにした(Mol Neurodegen, 2011)。以上より、私は遺伝子変異がないSADでもγセクレターゼの基質切断の質的・量的変化が起こり、それが発症に関与している可能性を初めて示した。
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