研究概要 |
平成22年度は研究計画に沿い、正常上皮細胞と変異細胞間の相互作用について研究を進め、以下に示す様に多くの成果を得た。 1)癌抑制タンパク質Lglに結合する、癌化を抑制するタンパク質を新たに同定し、Mahjongと命名した。また、MahjongをノックダウンしたMDCK上皮細胞が正常MDCK細胞に囲まれるとMahjong変異細胞がアポトーシスを起こすことを見出した。また、この細胞死はMahjong変異細胞のみを培養した時には見られないことから、周囲の正常細胞の存在が引き起こしたものであることが分かった。また、Mahjong変異細胞の死がp38MAPKの活性化を介して生じるものであることも明らかとし、これらのデータをPLoS Biologyに発表した(Tamori et al.,2010)。我々のこれらの研究成果は哺乳類で細胞競合が起こることを世界で初めて明らかにした画期的なものであり、非常に大きな注目を集めている(Nature Review Cancer, 2010など)。 2)Mycをテトラサイクリン依存性に発現するMDCK-pTR Myc細胞株を樹立した。現在正常細胞とMyc発現細胞の境界で起こる現象を解析中である。それに加え、ドミナントネガティブ型のp53をテトラサイクリン依存性に発現する細胞株を現在作成中である。 3)正常MDCK細胞とMDCKts-v-Src変異細胞を用いて以下の3つの条件で細胞を培養:i)正常細胞のみ、ii)変異細胞のみ、iii)正常細胞と変異細胞の混合培養。それぞれの細胞抽出液を抗リン酸化チロシン抗体で免疫沈降し解析を行ったところ、二つのタンパク質が正常細胞と変異細胞の混合培養のサンプルから特異的に見出された。このことは、正常細胞と変異細胞が混合することにより、新たな細胞内のシグナル伝達やプロセスが誘起されていることを示唆している。現在、Mass spectrometryにてこの二っのタンパク質同定を行い、それらが正常細胞とSrc変異細胞の境界でどのような機能を有しているのか解析中である。
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