平滑筋の収縮・弛緩の制御には種々のタンパク質のリン酸化・脱リン酸化が重要な役割を果たしている。従って、収縮・弛緩制御の分子機序を理解するためには、これらのタンパク質のリン酸化状態を定量する事が不可欠である。しかし、技術的困難のため、現状ではリン酸化状態の変化を相対的に検出する定性分析が主流となっている。本研究では多くの平滑筋収縮制御において重要な役割を果たしているミオシンフォスファターゼの調節サブユニットMYPT1のリン酸化定量法を開発を目指している。更に、開発した新規リン酸化定量法を用いて、高度に機能分化している微小平滑筋、特に、毛様体平滑筋の収縮制御機構の解明を試みる。実験試料として用いているウシ毛様体筋におけるMYPT1の発現をウェスタンブロッティングで確認したところ、大きさの異なる2種類のバンドが検出された。この2種類のバンドのリン酸化状態を、MYPT1のリン酸化特異抗体(抗pThr696-MYPT1抗体、及び抗pThr850-MYPT1抗体)を用いて確認したところ、いずれも両リン酸化部位がリン酸化されているものが含まれることが明らかとなった。このことから毛様体平滑筋の収縮・弛緩制御にMYPT1のリン酸化が重要な役割を果たしている可能性が示された。新規MYPT1リン酸化定量法を開発するには、生体試料を用いるよりもin vitroで任意のキナーゼを用いてリン酸化した試料を用いた方が効率的であることから、ウシ毛様体筋MYPT1の大腸菌発現系の構築を行っている。ウシMYPT1の全長cDNAはデータベースに登録されていないので、相同性が高いと思われるヒトMYPT1の配列を参考にして完全長cDNAのクローニングを試みている。現在までにいくつかの候補となる断片が得られており、配列分析を行っている。
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