平滑筋の収縮・弛緩の制御には種々のタンパク質のリン酸化・脱リン酸化が重要な役割を果たしている。従って、収縮・弛緩制御の分子機序を理解するためには、これらのタンパク質のリン酸化状態を定量する事が不可欠である。しかし、技術的困難のため、現状ではリン酸化状態の変化を相対的に検出する定性分析が主流となっている。本研究では(1)多くの平滑筋収縮制御において重要な役割を果たしているミオシンフォスファターゼの調節サブユニットMYPT1のリン酸化定量法を開発を目指し、(2)更に、開発した新規リン酸化定量法を用いて、高度に機能分化している微小平滑筋、特に、毛様体平滑筋の収縮制御機構の解明を試みる。 (1)MYPT1についてリン酸親和性電気泳動法であるPhos-tagSDS電気泳動法を用いて、リン酸化状態に応じた分離・定量の条件検討を行った。Phos-tag電気泳動によりリン酸化量に応じたMYPT1の泳動度の変化が観察されたが、現在までに定量可能なシャープなバンドの分離条件は確立していない。 (2)ウシ毛様体筋に於ける収縮・弛緩調節のシグナル伝達経路を明らかにするためPhos-tagSDS電気泳動法を用いてミオシン軽鎖LC20のリン酸化定量解析を行った。ウシ毛様体筋はカルバコール刺激によりCa^<2+>依存的に収縮するため、他の平滑筋と同様に、細胞内Ca^<2+>依存的なLC20のリン酸化によって収縮・弛緩調節が行われていると予想された。しかし驚いたことに、実際にLC20のリン酸化状態を測定してみると、カルバコール刺激の有無に因らず、LC20のリン酸化量は常に高い状態(40-50%)に維持されていた。また、ミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤ML7はカルバコール誘導収縮をほとんど阻害しなかった。これらの結果からウシ毛様体筋の収縮・弛緩調節にはLC20のリン酸化以外のCa^<2+>依存性因子が関わっている可能性が示された。
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