研究概要 |
一酸化窒素(NO)の産生量の少ない内皮型NO合成酵素(eNOS,NOS3)の遺伝子型をもつ人は人口の5~9%におよび、糖尿病になったとき糖尿病性腎症が悪化し透析にいたる場合が多い。我々はeNOSのノックアウトマウスを糖尿病にしてeNOSの欠損が糖尿病性腎症を悪化すること、eNOSの欠損および糖尿病は凝固系を活性化するtissue factor(TF,血液凝固因子III)を増加することを明らかにした。今年度はさらにTFの中和抗体が糖尿病性腎症を少なくとも短期間の観察では改善することを明らかにした。eNOSのノックアウトマウスを用いた糖尿病性腎症の研究は我々以外にも行われているが、NOS3の遺伝子型の違いではeNOSがゼロになることはなく、eNOSのノックアウトマウスで糖尿病性腎症が悪化したからといってNOS3の遺伝子型の違いによる程度の軽度のNO産生の減少が糖尿病性腎症の原因になっているかどうかは不明である。eNOSヘテロノックアウト(eNOS+/-)マウスはNOS3の遺伝子型の違いによるに匹敵するNO産生量の減少を示すことから、eNOS+みマウスをAkitaマウスと交配することにより糖尿病とし、糖尿病性腎症への影響を調べた。その結果eNOS+/-AkitaマウスでもeNOS-/-Akitaマウスに匹敵するほどの腎症の悪化とTFの増加がみられ、NOS3の遺伝子型によるNO産生量の軽度の減少がTFの増加を介して糖尿病性腎症を悪化させる原因となっていることを明らかにした。我々のマウスモデルではTFはマクロファージにのみ見られること、ヒトと違ってTFが糸球体足細胞に発現していないことから、マクロファージのTFの糖尿病性腎症悪化への寄与を骨髄移植により、また、糸球体足細胞TFの役割をヒトTFトランスジェニックを用いて現在検討中である。
|