研究概要 |
糖尿病性腎症(diabetic nephropathy, DN)は血液透析導入の原因の半数以上を占め、その発症を予防し進展を阻止する有効な治療法が求められている。我々はホモeNOS-/-糖尿病マウスを用いてeNOS欠損がDNを悪化する原因となっていることを明らかにした(J Thromb Haemost 2010)。NO産生の減少を伴うNOS3遺伝子多型276TTは人口の約10%近くにおよび、DNの悪化と相関する。NOS3 276TTのNO産生量は276GGの約30%であり、ゼロではない。従って、eNOS-/-マウスのDNが悪化したからといって、必ずしも276TTによる程度のNOの減少がDN悪化に十分とは限らない。そこで本研究で我々は野生型の約30%のeNOS発現量をもつヘテロeNOS+/-糖尿病マウスを用いてNOS3 276TT遺伝子型による程度のNOの減少がDN悪化に十分であることを示した(PNAS 2011)。 糖尿病では血液凝固が亢進しており、DNでは糸球体にフィブリンの沈着を伴うが、血液凝固亢進がDNを悪化させるか明らかでない。興味深いことにeNOS-/-糖尿病マウスのDNは酸化ストレスとは相関せず、糸球体へのフィブリンの沈着、腎臓での凝固第三因子(tissue factor, TF)TFの発現および活性、そして炎症のマーカーと強い相関を示していた。我々は、eNOSの減少がTF増加・凝固能亢進を伴いDNを悪化すること、高脂肪食がeNOS減少によるTF増加・凝固能亢進・DNの悪化を促進することを明らかにした。しかしながら、野生型eNOSの糖尿病マウスでは高脂肪食はTF増加・凝固能亢進をもたらすもののDNを悪化させなかった。従ってTF増加・凝固能亢進のみではDNを悪化させず、NO減少等の他の因子の変化がDNの悪化に必要であることが明らかとなった。本研究からeNOS発現の減少したあるいはNO産生の減少した糖尿病患者ではTFがDN治療の新たなターゲットとなりうる可能性が示唆される。
|