現在、先進国における高齢者の失明原因として重要な加齢黄斑変性(AMD)における脈絡膜新生血管について検討した。血管内皮増殖因子(VEGF)は脈絡膜新生血管の発生と密接に関係しているが、近年このVEGFには転写プロセスにより2つのfamilyが明らかにされた。この2者は血管新生に対して促進(VAGF-Al65)と抑制(VEGF-A165b)と相反する作用を持つことが報告されている。そこで、実際のAMD症例において、眼内液におけるVEGF-A165bの濃度を測定し、正常およびその他の眼内血管新生をきたす疾患と比較を行い、AMDにおけるVEGF-A165bの意義について検討した。 AMD症例に対して、現在治療の主流となっている抗VEGF抗体の硝子体注射の際に、前房水を30ゲージ針と1ccシリンジを用いて約0.1ml採取し、冷凍保存したものを後日ELISA法にて検討した。ELISAは、抗VEGF-A165b抗体を用いて、サンドイッチ法にて行った。比較対照群として、明らかな眼血管病変を持たない白内障症例、糖尿病網膜症および網膜血管閉塞症の症例から採取した前房水を用いて検討した。 前房水中のVEGF-A165b濃度は、AMD症例(n=66)32.6±55.4pg/ml、白内障症例(n=13)26.6±50.6pg/ml、網膜血管病変(網膜静脈閉塞、糖尿病網膜症n=19)18.8±27.4pg/mlであった。AMD症例では、網膜血管病変に比べて眼内VEGF-A165b濃度は高い傾向にあった。(P=0.139、Mann-Whitney検定)この結果から、AMDでは、糖尿病網膜症などの網膜血管病変に比べて、血管新生に抑制的に働くVEGFファミリーの一つであるVEGF165bは高めに保たれている可能性が考えられた。しかし、眼内血管新生を伴わない白内障症例との間に差が見られなかったことについてはさらなる検討が必要である。
|