本研究では、消化管コレステロール吸収ならびにコレステロール胆汁排泄を制御するNPC1L1に焦点をあて、消化管・肝臓におけるNPC1L1の発現量の性差ならびにその分子機構を解明すべく研究を進めた。本年度は、昨年度までに得られた消化管コレステロール吸収効率の男女差(女性>男性)、ならびにエストロゲンレセプターα(ERα)高発現細胞において見出された女性ホルモン(エストロゲン)負荷によるNPC1L1のmRNA発現量の上昇に関して、その分子機構の解明を目指した。エストロゲンによるNPC1L1転写活性への影響を検証するため、NPC1L1の5'-上流域を組み込んだレポーターベクターをERα発現ベクターと共にヒト肝臓由来の培養細胞であるHepG2細胞に一過性導入し、ルシフェレースアッセイを行った。エストロゲン負荷によりルシフェレース活性の上昇は観察されたものの、NPC1L1の上流配列を含まないコントロールベクターにおいても同様の上昇が観察されたことから、NPC1L1上流配列に特異的な転写活性の上昇は見出されなかった。このことから、エストロゲンによるNPC1L1の発現量上昇には、mRNAの安定化といった転写活性以外の機構が関与する可能性が考えられた。 昨年度までにコレステロール胆汁排泄の促進因子として機能することが示唆された胆汁中NPC2に関しても、その分泌量の制御機構ならびに性差の有無について検討を行った。その結果、NPC1L1がNPC2の成熟過程を阻害し、NPC2の分泌を負に制御することが明らかとなった。これはNPC1L1の新規機能を明らかにし、NPC2の新たな分泌制御機構を見出した点で生理学的意義が大きい。エストロゲンによるNPC1L1の発現量上昇の結果を考え合わせると、胆汁中NPC2量ならびにコレステロールの胆汁排泄量に関してもNPC1L1を介した性差が存在する可能性が考えられた。
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