本研究は、多彩な生理機能を発揮する脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)に対する受容体であるLPA4を研究ターゲットとし、本分子がメタボリックシンドロームの進行において果たす役割について明らかにすることを目的とする。平成22年度は、肥満モデルでLPA4欠損マウスにおいて認められたインスリン抵抗性の改善について、そのメカニズムについて生体・臓器レベルで解析することを研究計画とした。まず、野生型マウスとLPA4欠損マウスに高脂肪食を摂食させ、血清中のグルコース、トリアシルグリセロール、遊離脂肪酸の濃度を比較したところ、欠損マウスにおいて、空腹時血糖値が有意に低いがトリアシルグリセロールや遊離脂肪酸には有意な差は認められなかった。また、各種アディポカインの血中濃度をElisaで検討した結果、インスリン感受性ホルモンであるアディポネクチンが欠損マウスにおいて高値であった。組織の解析においては、欠損マウスにおいては肥満とともに進行する脂肪肝の程度が著しく弱いことも明らかとなった。LPA4の高発現が認められた脂肪組織においては、その重量は両者に違いはなかったが、脂肪細胞個々の大きさが欠損マウスでは小さく、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化が亢進している可能性が示唆された。さらに、定量PCRで脂肪組織における各種遺伝子発現を検討した結果、慢性炎症に関わる遺伝子(TNFaやMCP-1など)が欠損マウスで有意に低いことがわかり、インスリン抵抗性の基盤となることが知られている慢性炎症が欠損マウスで軽減していることが示唆された。
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