本研究は、多彩な生理機能を発揮する脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)に対する受容体であるLPA4を研究ターゲットとし、本分子がメタボリックシンドロームの進行において果たす役割について明らかにすることを目的とする。 平成22年度に行った、肥満モデルにおいてLPA4欠損マウスで認められるインスリン抵抗性改善の個体レベルでのメカニズム解明に引き続き、平成23年度は、その基盤となる細胞レベルでの分子メカニズムを解析することを研究計画とした。まず、野生型マウスとLPA4欠損マウス由来の胎児線維芽細胞(MEF)を調整し、脂肪細胞分化誘導処理を行った際の分化の程度について、脂肪細胞特異的マーカー遺伝子の発現により検討した。結果、LPA4欠損マウス由来のMEFは野生型マウス由来のMEFと比して、高い脂肪細胞分化能を示すことが明らかとなった。また、LPA4の下流で活性化されると考えられる因子であるROCKの阻害剤を用いた実験により、上記の差はROCK活性の程度によりもたらされている可能性が示された。 LPA4選択的アゴニストを用いたレポータージーンアッセイにより、LPA4が転写因子であるSRFをROCK依存的に活性化することも明らかとなり、SRFがROCKの下流で脂肪細胞分化を抑制している可能性が考えられた。近年マウス前駆脂肪細胞が同定されたため、この初代培養細胞を調整して実験を行ったところ、上記の実験結果と一致する結果が得られた。従って、脂肪前駆細胞においてLPA4-ROCK経路が脂肪細胞分化を抑制することが、肥満モデルにおいて生ずるインスリン抵抗性の基盤の1つとなっている可能性が示唆された。
|