自閉症やうつ病、統合失調症などの精神疾患は、比較的発症頻度が高く社会的損失が大きい。しかし、それらの精神疾患の病態に関してはまだ不明な点が多い。精神疾患の発症には、遺伝的要因と環境要因が関与すると考えられている。現在、多くの精神疾患研究のアプローチはゲノム網羅的解析などの遺伝学的解析によるもので、ウイルス感染などの環境要因を用いたアプローチは不足している。さらには、遺伝学的要因と環境要因がどのようにクロストークをして精神疾患のような高次脳機能障害を引き起こすかは明らかになっていない。一方、解剖学的観点からは、様々な脳部位が精神疾患の病態に関与することが明らかになっている。小脳はその中でも比較的精神疾患への関与が多く報告されており、自閉症との関連も報告されている。本研究では、ウイルスを用いて自閉症病態の分子メカニズムを解明することを目的とした。本年度の研究において、ウイルスによる高次脳機能障害について以下の結果を得た。 1)ボルナ病ウイルス(BDV)感染動物は自閉症様の行動異常、小脳病態を示すことが知られている。昨年度に、BDV P発現マウスが感染動物と同様の小脳病態を示し、それにはIGFシグナルが関与することを明らかにした。本年度は、自閉症様小脳病態を示すBDV P発現マウスの行動異常を探索し、社会性を測定する行動実験において明らかな異常を認めた。つまり、小脳障害は少なくとも自閉症の社会性の異常に何らかの関与が有ることが示唆された。 2)麻疹ウイルス(MV)に対するワクチンを含むMMRワクチンは自閉症との関連が示唆されている。MVの持続感染と自閉症との関連を明らかにする為に、MVの持続感染メカニズムを検討し、持続感染した変異MVは、通常急性感染で認める細胞障害とは異なる表現型を示すことが明らかになった。
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