本研究は申請者が世界に先駆けて確立した単純ヘルペスウイルスプロテインキナーゼ(PK)の試験管内アッセイ系を利用して、標的ウイルス基質および標的宿主細胞基質を網羅的に同定し、それらリン酸化の感染細胞およびマウス病態モデルにおける生物学的意義を解明する。これらの解析を通じて、ウイルスPKによる宿主細胞制御機構およびそれに基づくウイルス病態発現機構の全体像を明らかにすることを目的とした。本研究期間に我々は、試験管内アッセイ系を利用し、標的基質のスクリーニングを順次すすめた結果、新規標的ウイルス基質として、VP13/14を同定した。さらに解析を進め、VP13/14に関しては、リン酸化部位がSer-77であり、VP13/14の核局在の制御をウイルスPKが司ることが明らかとなった。また、本リン酸化現象が、単純ヘルペスウイルスの代表的疾患の一つであるヘルペス性角膜炎の効率的な発症に必要であることが、マウス病態モデルを用いた解析からも示唆された。また、当初の予定に加え、高感度質量分析系を用いた網羅的解析の結果、単純ヘルペスウイルス感染細胞における包括的なリン酸化状態を明らかにすることにも成功した。これらのリン酸化情報のデータベースは、単純ヘルペスウイルスの病態制御を理解する上で、今後重要な役割を果たすことが期待させる。事実、現在、本知見を基盤として、単純ヘルペスウイルスが脳炎を発症する際の病態制御機構の解析が後続研究として進行中である。以上の研究成果は、抗ウイルス戦略および単純ヘルペスウイルスワクチン開発への重要な基礎的な基礎的データと考えられる。
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