活性酸素は古くは老化との関連に注目が集まり有害物質としての側面が論じられがちであったが、近年、生物のホメオスターシスを維持するシグナル伝達物質としての役割に注目が集まっており、血液領域での報告も増加している。本研究では血小板・赤血球へ分化するmegakaryocyte-erythrocyte progenitor cell(以下MEP)が造血細胞の中で最も低く活性酸素が制御されている事を示した。さらに活性酸素の負荷により、common myeloid progenitor cell(CMP)からMEPの分化・生成が阻害される事を示した。また、活性酸素の低いCMPと高いCMPを細胞分離し遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイ法で比較したところ、活性酸素の低いCMPではMEPと近い遺伝子発現パターンを持つことが確認された。この遺伝子発現プロファイルからMEPに特徴的な遺伝子群をピックアップし、細胞への活性酸素の負荷により発現が強く変化する遺伝子を検索したところcolony stimulatingfactor-1receptor(CSFIR)が活性酸素の負荷により発現が高く制御されることが確認された。また逆にCSFIRの発現の低いCMPはMEPに分化する頻度が高くなることが示され、活性酸素-CSFIR-CMPレベルでの骨髄球系前駆細胞の系統決定という分子経路が、正常造血、特に骨髄球系前駆細胞の分化過程に於いて重要な役割を果たす可能性を示された。活性酸素による骨髄球系前駆細胞の分化制御の知見は、再生医療での造血細胞生成の効率化、化学療法後の造血回復の促進等に研究を広げることで、実臨床への応用が可能と考えられ、重要であると考えられた。
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