マクロファージは局所免疫制御について中心的役割を担う細胞である。本研究は脱落膜内に存在するマクロファージの機能について解析を進めることにより早産の新たな予知および治療戦略を探ることを目的として開始した。そのための方法として、ヒト検体を用いた検討と、早産マウスモデルを用いた解析を行った。ヒト脱落膜検体を用いた脱落膜マクロファージの生理的機能の解析を行ったところ、妊娠時期においてダイナミックな性質の変化を生じていることが確認できた。妊娠初期から中期にはB7-H1、Indoleamine Dioxygenaseなどの分子を介した免疫制御機構の活性化したタイプのマクロファージが中心となり、母体胎児境界面における免疫寛容に関わるのに対して、妊娠末期にはその働きが減弱して炎症性マクロファージへと変化することで、分娩に向けた変化が進行していることが分かった。また、脱落膜マクロファージの前駆細胞である末梢血の単球が脱落膜内へ遊走し局所のサイトカイン環境によってそうしたマクロファージの性質が制御されていることが示唆された。早産マウスモデルの作成をLPS投与による方法を用いて行った。ヒト早産の主要な原因として子宮内への細菌感染が知られているがLPS投与によるマウスでの早産誘発はそうした病理機序に合致したものである。このモデルを用いて炎症性M1マクロファージと抗炎症性M2マクロファージの早産機序への関与を確認した。正常妊娠マウスの子宮内マクロファージはM2が中心的であるのに対して、LPSの投与によりIL-6、TNF-αの上昇とともに子宮内においてM1マクロファージへの極性変化が生じて、分娩を誘発している可能性が示された。以上の結果より正常の分娩と早産の進行に共通した背景機序として分娩に先行するマクロファージの機能的変化が存在することが考えられたため、今後そうしたマクロファージの機能的変化を察知するような予知マーカーや、治療戦略についてさらなる検討を進める必要がある。
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