研究概要 |
メラノーマは色素細胞系譜から発生する悪性腫瘍である。我々は、メラノーマの元となる可能性のある色素細胞の幹細胞を同定し、その維持において周囲の微小環境ニッチが色素幹細胞運命の決定に重要であることを示してきた(Nature 2002,Science 2006,Cell 2009)。これまでのがん幹細胞研究では、腫瘍から取り出したがん細胞やがん細胞株を免疫不全マウスに移植して腫瘍起始細胞の腫瘍起始能力を評価しているが、同種または異種の免疫不全マウスの皮下という、がん病巣内の環境や発生母地からも全く異なる環境へと人為的に移植されて評価している点で、微小環境依存性という大きなバイアスがかかっている。さらに、既知のメラノーマの動物モデルでは、腫瘍細胞は真皮において増殖し、実際のヒトでみられる表皮内での特徴的な広がりや腫瘍細胞の胞巣形成やメラノーマ細胞の浸潤は認めず、組織学的にはヒトのメラノーマとはほど遠い。そこで、ヒト型の皮膚を摸倣できるマウス(extension:K14-SCF)に、ヒトメラノーマで高頻度に見られる変異型NRAS Q61Kを色素細胞特異的に発現できるアレルを導入し、また、ヒトメラノーマで高頻度に欠損の見られるInk4a/ARFがん抑制遺伝子の欠損アレルを導入し、さらに色素幹細胞系譜がβ-galactosidaseによりラベルされるマウスの作出に成功した。色素幹細胞系譜の可視化により、このマウスからヒトメラノーマに酷似する像が得られるのかどうか、母班やメラノーマがどのように発生してくるのか、現在、詳細に解析中である。また、上記のヒト型の皮膚をもち、がん抑制遺伝子の欠損、色素幹細胞を可視化できるマウスに、ヒトメラノーマで高頻度に見られる変異型BRAF遺伝子を色素幹細胞特異的かつ成体内で薬剤依存的に誘導できるアレルを導入し、このマウスからも同様の検討を行っている。
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