我々はカニクイザルの頸髄前角にアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで野生型TDP-43を過剰発現させることにより、孤発性筋萎縮性側索硬化症(SALS)のサルモデル作製に成功した。同様の手法でSALSラットモデルを構築し、SALSにおけるTDP-43蛋白の病的意義を明らかにすることを目的とする。方法としては、フィッシャーラット(10週齢オス)にて片側椎弓切除術を施行し、第4、6頸髄左側の前角付近にAAVベクターを用いてflag標識したヒト野生型TDP-43を注入し(3×10^<12>vg/ml、1.5μl)、ラットの神経症状、電気生理検査、病理組織学的検索およびWestern-blotによる蛋白解析を行った。ヒト野生型TDP-43 AAVを注入したラットは、術後約3週後から注入側の左前肢に進行性運動麻痺を生じ始め、4週後には完全麻痺となった。電気生理学的には左前肢に脱神経電位を認め、病理組織学的には注入部に明らかな炎症所見はなく、前角細胞の大部分にflag-TDP-43の発現を確認し、そのほとんどが常に核に局在していた。Western-blotでは注入した外因性TDP-43のみが一部リン酸化されており、25kDaのC末断片は認めなかった。以上の結果から、脊髄前角に野生型TDP-43を過剰発現させることにより、進行性の前肢運動麻痺というSALS類似の神経症状を再現することに成功した。SALSの病初期においては、病的とされるTDP-43蛋白のC末断片化やリン酸化は必要ない可能性があり、重要な知見が得られたと考えている。
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