昨年度までに申請者らは、メラノコルチン4型受容体欠損マウス(MC4R-KO)に対する20週間の高脂肪食負荷により、肥満に基づく脂肪肝から肝線維化・肝癌に至る全く新しいモデルを確立した。近年、メタボリックシンドロームの基盤病態として慢性炎症が注目されており、特にマクロファージの病態生理的意義が明らかになりつつある。本年度は、申請者らが独自に確立した新規NASHモデルを用いて、NASHの病態形成におけるマクロファージの病態生理的意義を検討した。 クロドロネート含有リポソームを用いて肝マクロファージを消去する系を立ち上げ、20週間の高脂肪食負荷後にリポソームを投与した。野生型マウスにおいてマクロファージを消去すると、通常食群・高脂肪食群いずれにおいてもマクロファージマーカーであるF4/80陽性細胞がほぼ消失し、F4/80の遺伝子発現も著明に減少した。また、高脂肪食群では通常食群に比して上昇した炎症・線維化マーカーの発現が低下した。一方、高脂肪食を負荷したMC4R-KOでは、野生型マウスと比較してマクロファージの消失効率が弱く、炎症・線維化マーカーの発現も抑制されなかった。肥満脂肪組織では、細胞死に陥った脂肪細胞をマクロファージが取り囲むCrown-like structure(CLS)が認められることが知られているが、NASHを発症したMC4R-KOの肝臓ではCLSに類似した構造が認められ、特にCLS様構造を形成するマクロファージがクロドロネートリポソームに抵抗性であった。 以上から、NASHの発症に伴ってマクロファージの分布に変化が認められ、さらに機能的な変化が起きている可能性が示唆された。
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