本研究は、ハイドロダイナミック遺伝子導入法を用いた、ヒトに対する遺伝子治療法の実現のため、遺伝子注入器の開発と、安全性、有効性の検証することを目的としている。昨年度からの本研究費による助成によって、以下の研究成果が得られた。 1.大動物、特にイヌの肝臓、筋肉に対する適切な注入パラメーターの設定:昨年度より引き続き、血管造影手技によりイヌの各肝静脈、大腿静脈に遺伝子注入カテーテルを挿入し、設定した注入圧、量、速度などの各パラメーター下で、ルシフェラーゼ発現プラスミドを遺伝子導入し、その導入効率と安全性を検証した。この結果、イヌの下肢筋肉、肝臓に対する最適な遺伝子導入パラメーターが設定された。 2.長期遺伝子発現効果の検証:上記のパラメーター下で、実験用雑種犬5頭に対し、ヒト凝固因子IX番発現プラスミド、ヒトアルファワンアンチトリブシン(hAAT)発現プラスミドをハイドロダイナミック法で遺伝子導入した。安全性の観点からは、注入時の一時的な肝逸脱酵素の上昇以外には、血液生化学的検証でも、安全性に問題を認めず、同一動物に対し、異なる遺伝子を導入しても、その成長にも問題を認めなかった。遺伝子導入効率の観点からは、ヒト凝固因子IX番欠乏血漿に対する凝固補完活性値は、導入前の4.6%から2週間で51.4%に上昇し、治療域レベルは10週にわたり維持され、血友病Bに対する治療効果が示唆された。hAAT導入では1週後には、ネフェロメトリー法による測定で、血清hAATが253μg/mlまで上昇し、効率的な遺伝子導入が確認された。 3.注入システムの改良:昨年度に引き続き、理想的な肝実質内圧と時間曲線を再現するフィードバックシステムを組み込んだ電動モーター式の注入機を作製し、動物実験によりで有効性を検証している。 以上の結果から、大動物においてハイドロダイナミック遺伝子導入法が安全、かつ効率的に応用が可能であることが示された。また、臨床診療で利用されている、血管造影手技と組み合わせることによって、より臨床応用に近づくことが示唆された。今後は、よりヒトに近いモデル動物として、霊長類での検証が必要不可欠であると考える。本研究の一部はピッツバーグ大学薬学部との連携研究として実施された。
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